吐き気・嘔吐
吐き気・嘔吐とは
胃の内容物を口から吐き出すことを嘔吐と呼び、腹部に過度な圧力がかかったり、消化器などの内臓に負担がかかったり、脳幹にある嘔吐中枢に刺激が加わることで生じます。
吐き気は医学的には「悪心」と呼び、すぐに吐いてしまいそうな状態のことを指します。吐き気の症状のほとんどは消化器の異常が原因となりますが、心疾患や脳疾患などの深刻な病気が原因で生じることもあります。
食中毒や毒物などが原因となる場合は、速やかに治療しなければならないこともあります。また、ストレスなど精神的な原因で吐き気が起こり、実際に吐いてしまうということも珍しくありません。
このように様々な原因があるため、吐き気・嘔吐が起こっている場合、その原因を特定して最適な治療を行うことが重要です。患者様それぞれの原因を特定するために、下記のような症状が起こっていないかを確認します。
- 腹痛の有無
- 尿の色の状態
- 経験したことがないような頭痛の有無
- 胸痛の有無
- 吐瀉物の血の混入の有無
- 発熱の有無
- 背部痛の有無
- 左肩痛の有無
- 便やおならの頻度…など
また、女性では妊娠初期の悪阻も考えられますので、月経周期などを確認する場合もあります。
吐き気を催す中枢を刺激する嘔吐
吐き気・嘔吐が起こる病気として、消化器疾患以外のものでは下記のようなものが挙げられます。
①くも膜下出血、脳腫瘍、脳出血
くも膜下出血は、脳を包む硬膜の奥のくも膜のさらに奥にあるくも膜下腔というスペースで出血している状態のことです。血液がすぐに溜まって脳にダメージが及ぶことで、吐き気・嘔吐、強い頭痛などの症状が起こります。命を脅かす深刻な疾患ですので、速やかな治療が求められます。
脳腫瘍で吐き気・嘔吐、頭痛などが起こる場合もあります。腫瘍が生じた場所に応じて、視覚障害や麻痺、言語障害が起こる場合もあります。
脳出血は、動脈硬化などが原因で脳の細い血管が破裂して出血が起こり、血液の固まりが脳の組織にダメージを与えるため、出血部位に応じて多様な障害が生じます。嘔吐中枢の近くにダメージが及ぶと、嘔吐の症状が現れる場合もあります。
②お薬の副作用
病気の治療薬の副作用で、吐き気・嘔吐が起こる場合もあります。
抗がん剤の副作用がよく知られていますが、他にも心不全の治療薬であるジギタリス製剤、鎮痛作用があるオビオイド(医療用麻薬)、喘息の治療薬である気管支拡張薬のテオフィリンなどの副作用として吐き気・嘔吐が生じる場合があります。
③食中毒
細菌やウイルスによる食中毒では、吐き気・嘔吐、腹痛、下痢などの症状を示します。O157やノロウイルスといった病原性大腸菌などだけでなく、アニサキス感染による胃アニサキス症などでも激しい痛み、吐き気・嘔吐が生じる場合もあります。
④ストレス(精神的嘔吐)
疲労や大きなストレス、緊張などによって、脳の嘔吐中枢が刺激されて吐き気を感じる場合があり、刺激が大きいと嘔吐する場合もあります。
各臓器が刺激されて生じる嘔吐
①急性胃炎
急性胃炎とは、暴飲暴食や香辛料などの刺激物の摂取、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗菌薬などのお薬の副作用、ストレスなどによって、胃・十二指腸の粘膜で突如として強い炎症が生じた状態のことです。
吐き気・嘔吐、みぞおち付近の痛み、胸やけなどが代表的な症状で、重度の炎症によって下血や吐血が起こる場合もあります。
②胃・十二指腸潰瘍
炎症で胃粘膜が大きく損傷した状態を「びらん」、粘膜下層より深部が損傷した状態を「潰瘍」と呼びます。胃・十二指腸潰瘍はピロリ菌感染が原因となることが最も多いですが、最近はその次にステロイド薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)といったお薬の副作用が原因となるケースが多くなっています。
吐き気・嘔吐、みぞおち周辺の痛み、食欲不振、胸やけ、膨満感などの症状が起こり、血管が損傷すると出血し、タール便や吐血などが起こる場合もあります。胃炎でも同様の症状が起こりますが、胃・十二指腸潰瘍ではお腹が空いている時に痛みが生じる傾向にあります。
③胃がん
発症初期の胃がんは自覚症状が乏しいですが、悪化すると吐き気・嘔吐、胃痛などの症状が起こります。しかし、別の胃腸の病気でも同様の症状が起こるため、注意が必要です。
早期発見によって、負担が少ない内視鏡による治療で完治が見込めますので、こまめに胃カメラ検査を受けることが重要です。また、日本では胃がんの発症原因の9割以上がピロリ菌感染だと言われていますので、ピロリ菌感染陽性となった場合はきちんと除菌治療を受けることで、将来的な胃がんの発症を防ぐことが重要です。
④虫垂炎
虫垂炎(通称:盲腸)とは、大腸と大腸の境目から下の盲腸部分にある細い紐のような虫垂という部分の入り口が、糞石などにより閉塞し、内側で炎症が生じる疾患です。
発症早期はみぞおちの周りの痛みが生じ、次第に痛みが腹部まで下がり、最後は虫垂が位置する右下腹部に痛みが生じます。また、発熱、吐き気・嘔吐などの症状も起こります。10~30代のどちらかと言うと若い方が発症しやすいという特徴があります。
⑤腸閉塞
腫瘍による狭窄、手術痕の癒着、腸捻転や機能障害などが原因で腸が閉塞し、詰まった先に便や食べ物が運ばれなくなります。
便や食べ物だけでなく、おならも出せなくなり、吐き気・嘔吐、膨満感、強い腹痛などが生じます。腸組織が壊死する場合もあるため、早急な治療が欠かせません。
⑥腹膜炎
腹膜炎とは、虫垂炎、胆のう炎、潰瘍、がんなどが悪化して消化管に穴が開くこと(穿孔)、細菌感染が原因で、腹部全体を覆う腹膜で炎症が生じる疾患です。
発熱、強い腹痛、呼吸困難などの深刻な症状の他、吐き気・嘔吐が起こる場合もあります。専門医による治療を受けないと命を落とすリスクもあるため、早急に病院に行くようにしてください。
⑦メニエール病
メニエール病の明確な原因は不明ですが、内耳にある平衡感覚に関係する部分に溜まっているリンパ液の代謝バランスが乱れ、量が過剰になることで生じると考えられています。
片耳の難聴や耳閉感、日常生活に支障があるくらい強い回転性のめまいが発生します。また、めまいに伴って吐き気・嘔吐が生じる場合もあります。
吐き気・嘔吐の原因となる疾患の治療
吐き気・嘔吐の原因を調べるために当院では、腹部超音波検査、腹部レントゲン検査、胃カメラ検査などをスピーディーに実施します。また吐き気・嘔吐の原因は消化器以外にも全身の様々な器官の異常が考えられます。
吐き気は医学的には「悪心」と呼び、すぐに吐いてしまいそうな状態のことを指します。吐き気の症状のほとんどは消化器の異常が原因となりますが、心疾患や脳疾患などの深刻な病気が原因で生じることもあります。
そのため、消化器疾患のみならず、問診で病状や症状が起こるきっかけを詳細に確認した上で、聴診や触診などを実施し、適切な検査で原因を突き止めて、原因疾患に対する治療を実施します。重度の嘔吐が起こっていれば、原因疾患の治療の他、水分摂取量などを伺い、脱水のリスクがあれば点滴による補水なども実施します。
また、より高度な治療を要する場合は、連携している医療機関にお繋ぎし、すぐに適切な治療を受けられるようサポートいたします。